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RPA-MG1000“FIDELITY”記事 日本語翻訳

ドイツのオーディオ系専門WEBサイト“FIDELITY”にRPA-MG1000(国内型番:MG1)が掲載されました。
日本語翻訳版をご紹介します。

クラスD ? クラスD?クラスD!

「アンプは楽器です」と、SPEC株式会社開発担当者の坂野勉氏は言う。
彼の手による傑出したパワーアンプのサウンドを聴いた者で、反論する者はひとりもいないだろう。

「彼は自分の幸運について、何もわかっていなかった。」
この言葉は文脈次第で、何かとても良いことが起こりそうに響いたり、何か危険なことが待ち受けているように響いたりする。
とにもかくにも、人は何が待ち受けているのかわからない未来へと目を向けることになる。
SPEC RPA-MG1000の場合、その展望は極めてポジティブなものである。
コインランドリーで回転するドラムを見つめていたら、思いがけず重要なものと出逢っていた、というようなこともあるらしい。私の重要な出逢いも、洗うことと回転とが関係していた。初めてモノラルのパワーアンプを体験したとき、日本のこの、他に類を見ないアンプのことは全く視野に入らず、むしろレコード盤の洗浄に興味が向かっていたからだ。
このときの一連の試験は、FIDELITY誌編集部の多様な試験ラインナップを反映するものであった。オーディオ・ノート社のMMカートリッジ付きレコードプレーヤーと真空管式プリアンプが、フロントエンドとして機能していた。これは、高レベルなラインインプット用のパッシブ・スイッチボックスを介して、SPEC RPA-MG1000と接続されていた。この2つのモノラルパワーアンプが、傑出したスピーカーであるWilson Audio Sasha DAWに接続されていた。
しかし、その試聴を行った日に注目されたのは、レコードプレーヤーでもなければアンプでもなく、Clearaudio社の「小さな」レコード盤洗浄装置(FIDELITY 通巻第49号を参照)が、「劣化」したレコード盤におよぼす効果がどの程度であるかという点であった。信頼できる結果が出るまで、まる一日をかけてレコードを再生し、洗浄し、再び再生し、というプロセスを繰り返した。
このとき、アンプのパフォーマンスは理想的なスタジオ用システムのように、その能力をこれ見よがしにひけらかすことなく、何の音響的な要素も付け加えることなくバックグラウンドで活躍していたことに、試聴担当者は気づかなかった。というのも彼の注意が溝の走行音や固定金具を付けたときの騒音レベルなど、他のパラメーターに向けられていたからである。
それからしばらくして、編集部からSPEC RPA-MG1000のテストを行うことができるかどうかについて電話があった。
「もうお聴きになっている筈です。」それに対する答えは、
「はい…いえ…あまり意識していなかったんですが。」受話器の向こうで一瞬の沈黙があった。
新たに注目するべき対象についての説明と、「目的のための手段」というやり取りのあと、注目するべき対象を少しばかり変えて、モノラルパワーアンプを中心に据えるように依頼された。

スタジオレベルのモニタリング用機器

SPEC RPA-MG1000を、スタジオレベルの高性能モニタリング用機器としてだけではなく、長時間の鑑賞用機器としても使用するということは、良い意味での「不謹慎な提案」であると言える。
何も意識せずにこのアンプからのサウンドを聴いたのは、放送ジャーナリストであり、愛好家でもあるイタリアの知人が所有しているポップスやジャズのレコードをかけたときで、いずれにしろ、良質なサウンドであるとの認識であった。
最良の音質という観点ではプレスされていないことが明らかなレコードでも、その再生音の耳障りな印象は最小限に抑えられていた。
オルネラ・ムーティ出演の映画「トリエステから来た女」のサウンドトラックの音楽(リズ・オルトラーニ作曲)などは、虹のように多彩な音色が再生されただけではなく、深く幅広い空間が感じられるサウンドで聴く者を魅了した。
しかしながら、これは特にアナログレコードの録音などの、巧みにミキシングされた録音ではよくあることなので、この音の特性に対しても心の中で感嘆符を付けるほどの印象ではなかった。

数週間後、SPEC社製ハンドメイドアクセサリーについて、前回の試験のときよりもずっと激しい議論が行われた。
このパワーアンプがいわゆるDクラスのデザインを有していることはこの時点で明らかであった。Dクラスとは、ハイエンドの製品群の中では今でも正統とは見なされていない技術であり、誤って「デジタル方式のアンプ」と呼ばれている。クラスDは完全にアナログで動作するため、この呼び名は間違ったものである。
今までFIDELITYのリスニングルームでは、以下のシステムがたいへん良好な音質を提供している。それは、約10,000ユーロという高額な某社ハイブリッド旗艦モデルであるアンプと、それにふさわしいSACDプレーヤーを組み合わせたものであり、高価な「ステレオシステム」の最も贅沢なかたちのひとつである。
SPEC RPA-MG1000のペアにとって、このような比較は全くくだらないものであり、比較する意味はすぐになくなってしまう。
この2つのモノラルパワーアンプは、その外付けのエネルギー供給ユニットとともに、電力の消費に約6倍の差があるというだけではなく、ほとんどすべての音響的に重要なパラメーターにおいても、上記のフルアンプを明確に引き離しているのだ。
制限事項がひとつある。
それは周辺環境を適合させる必要があるということだ。すなわち、このアンプに接続される一連の機器は、SPEC RPA-MG1000と同等のものでなければならない。システムが「見合って」いないスピーカーからは、期待するものが出力されないという可能性があるので、フロントエンドに対してコスト惜しんではならない。そして再生機器は、当然、最高レベルのものを使用しなければならない。
チャンネルごとに300Wと、高出力においても圧倒的な電源供給能力を持つSPEC社のモノラルパワーアンプを凌駕するような製品は存在しない。
初期の仕様において、極端に低いインピーダンス値の「おかげ」で、多くの世界的に名の通ったアンプを発煙させたという伝説のInfinity Kappa 9ですら、無尽蔵の給電能力を見据えて設計されたSPEC RPA-MG1000は問題としないだろう。
このビンテージスピーカーは、私がよく知るハイエンドファンの幾人かが所有している。混じりけのない力強い低音と洗練された高音域の組み合わせは、必ずしも原音に忠実というわけでも、ニュートラルというわけでもない。しかし良い意味で熱狂させてくれると感じるがゆえに、彼らは今でもこれを使用している。
SPEC社の主任開発者である坂野勉氏も、彼がSPEC RPA-MG1000の設計に携わった際に、よく似たことを(しかし、音質的な再現性という点ではさらに強く)、その意識の底に持っていたようである(インタビューを参照)。
そのターゲットは、色づけも歪みもない、しかし決して魂のこもっていない「再現装置」のような動作をすることのないアンプを作ることであった。
これは、Dクラスということをアンプの基本原理として掲げている場合、解決することが極めて難しい課題であった。

信号の純度

坂野氏とその技術クルーは、この極めて困難な課題を克服した。一見すると、このソリューションはいささか風変りにうつる。例えば、パワーアンプとボリュームコントローラーがケーブル接続されていることなどである。
しかし、アンプ部と同等の高級木材を用いたこのボックスで制御するものが、信号ではなく、「Dクラスのアンプモジュール」の手前のアンプ部の増幅率であることを知ったとき、人はSPEC RPA-MG1000の計算し尽くされた独自性に目を見張るだろう。何よりも、このパワーアンプはサウンドという点においては、あまり気を遣わなくても良いからである。
試験において、私は2016年から2018年の映画音楽をこのアンプで再生してみた。
ハリーポッターのスピンオフ作品である、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(Fantastic Beasts and Where to Find Them)と、その続編である「黒い魔法使いの誕生」(The Crimes of Grindelwald)、これらは映画音楽のプロであるジェームズ・ニュートン・ハワードの手による、大胆かつ効果的に作曲および録音されたサウンドトラックから取られたものである。
このアンプは、架空の獣に仰々しくて華々しい音楽的舞台装置を与えただけではなく、ソニーの作品は音響面でも高い要件を満たしていることにも気づかせてくれた。
SPEC RPA-MG1000とWilson Audio Sasha DAWとの組み合わせによる2チャンネル再生であるのに、ほとんどマルチチャンネルのレベルで再現されたのだ。オーケストラはかなり立体的に構成されており、空間というものが驚くほど幅広く深く感じられた。音色は完全に本物であり、あらゆる人工的な音とは一線を画すものであった。これは最高レベルのフィリグラン(金銀線細工)のような再生である。
それ故に、試聴に立ち会った者は緻密に制作されたプラスチックポップが感情を揺り動かすことができるのだということに、驚きとともに気づくのであった。
イギリスのバンドであるロンドン・グラマーのデビューアルバムにあるトラック「Hey Now」は、このような試験によく使われる。これを再生したときは、シンセベースの深い音色と極めて正確なタイミングで容赦なく襲いかかってくるグルーブ感だけではなく、これまではたいてい取り残されていたディテールにも魅了された。
精細な解像度が発揮されているが、全体像はシームレスな感覚を保っていながらも、ぼやけたような印象を与えることはなかった。
「クラスD」というカテゴリーにおいて、SPEC RPA-MG1000は変革を意味するのではないだろうか。トランジスタの力と真空管のデリケートさが、ここではひとつになっている。そして、これよりも高いレベルに到達することはないだろう。

SPEC社開発担当の坂野勉氏、DクラスのパワーアンプRPA-MG1000のテクノロジーについて語る

DクラスのパワーアンプであるSPEC RPA-MG1000は、良い意味でアナログであることを貫いている。洗練された真空管による設計の方が、デジタルのアンプよりも良いサウンドを実現するものである。主任開発者である坂野勉氏に、これについて聞いた。
「私たちの重要なコンセプトのひとつは、実際の音に即したリアリスティックなサウンドが最も美しいという考え方から導き出されています。」と、坂野氏は言い、さらに次のように付け加えた。
「ライブで演奏された音楽の響きに、できる限り近づくことによって、私たちは、アーティストの音楽的個性に限りなく近づけるのだと確信しています。」坂野氏の見解によれば、このライブのサウンドには、音声の急峻な変化や音色の複雑な構成プロセスなども含まれるという。このことから、ソースの信号がスピーカーの振動版の動きに正確に反映されるためには、アンプが十分な出力を有していることも不可欠だという。
坂野氏と彼のチームは、パワーアンプの動的な側面にだけ注目しているのではない。静止時(=動きの小さい時)のアンプの動作にも注目している。
「信号が大きいときだけではなく、信号が小さいときも、スピーカーを正確に遅延なく制御することが音楽の再生における不可欠な基本的事項だと考えています。」と坂野勉氏は強調する。
FIDELITY誌編集部は、SPEC社のアンプに用いられている「ピュア・ダイレクト・システム」が提供するサウンドが、Dクラスのものに聞こえない理由を同氏から聞きたいと思った。「スピーカーをできる限り正確に制御するには、Dクラスが最適です。ただし、過去にはこの基本原理にいくつかの弱点がありました。」と、坂野氏は打ち明ける。
Dクラスアンプの原理は、電流の方向をたいへん高い周波数で切り替えるものだという。これによって、配線の誘導が音響の性質を決定づける影響を及ぼすようになり、波形が変化するという結果に至るのだそうだ。
「これはもちろん、音質に影響します。」と同氏は解説する。

坂野勉氏は、すでにソリューションを持っていた。
「アンプからローパスフィルターまでの内部配線の長さをできる限り短く保ち、リードを持たないパワーデバイスを採用しました。
スイッチングデバイスからローパスフィルターまでの信号伝達区間がわずか15ミリと、回路上のDクラスブロックは極端に小さくなっています。
寸法はこのように小さいですが、この小さなパワーデバイスは300ワットの出力を待っています。」このチームのスタッフは、Dクラスコンポーネントの研究と開発におよそ10年の経験を有しているのである。
基本的な機能はすべて基板の上にまとめられている。回路の重要部分には最高品質の構成部品が使用されている。これは、SPEC社が高価な既製品を仕入れているという意味ではない。回路に使用するコンポーネントは、すべて「品質第一」で自社設計されている。これによって、強力な電源の供給やピュアな信号が担保される。
「このようにして、私たちのDクラスコンセプトが最適化されるのです。」と坂野氏はしめくくった。
FIDELITYが知りたかったことは他にもある。RPA-MG1000のウッドパネルなどは、異なった材料のサンドイッチ構造になっているのだが、このような材料の混合がサウンドにどのような影響を与えるのだろうか。
「これは、ある音質を実現したいと思ったときの、重要な基本事項のひとつです。」と、坂野氏は強調する。彼がさらに付け加えたのは、まるで楽器製造のためのハンドブックから引用した注意書きのようだった。
「私たちのアンプの音質は、まず、考え抜かれた組み合わせとしてのスプルース材とメープル材によって生まれます。ウッドパネルを、さまざまな厚さ、形状、および接合方法を使って試験し、あらゆるバリエーションのリスニングテストを実行します。私たちは最終的にスプルースとメープルの組み合わせが最適であるという結論に達しているのですが、これはバイオリンの表板と裏板に使われる組み合わせそのものでした。木は音楽とともに振動し、音を遠くにまで響かせてくれます。アンプとは楽器なのです。」

コンデンサーの組み合わせも重要であると、坂野勉氏は付け加えた。
ここで問題となるのは、エネルギー供給を安定化させるための「容量」ではなく、何よりも、物理的な共振動作であるという。
コンデンサーとは構造的に見ればフィルムであるため、振動しやすい。
そのため、SPEC社ではさまざまなコンデンサーをひとつの回路に使用している。
「私たちはこれをブレンド、あるいはミックスと呼んでいます。」と坂野勉氏は言う。振動の影響を調整をすることで、木製の筐体用シャーシとコンデンサーは、音楽を伝達するためのエネルギーを創り出すためにプラスに働くことができる。

SPEC社製品の場合、大型の電源装置や外付けでケーブル接続されたボリュームコントローラーなども面白い。ここでも、サウンドに対する配慮が徹底されている。
「音楽を再生する場合、高調波が重要な役割を果たします。」と坂野勉氏は言う。
「楽器やボーカルのサウンドには、複雑な高調波が含まれています。それがそのサウンドの個性を決定づけます。アーティストの音楽的な表現をキープしようとするなら、バイオリンの音はバイオリンらしく、オーボエの音はオーボエらしく聞こえるようにしなければなりません。複雑な高調波によって、個々の楽器特有の音色が生まれるのです。」
しかしながら、高い次数の高調波はごく小さいもので、すぐに劣化してしまうという。そのため、小さな信号を、ごくわずかな損失もなく増幅することが必要なのである。
このような理由から、「ピュア・ダイレクト・システム」を利用することのできるボリュームコントローラーを開発したのだという。
「通常の機器接続では、プリアンプの音量コントロール機構は、音楽信号を絞って、これをパワーアンプに送ります。パワーアンプは、高い増幅ゲインを持っているので、入力信号は極めて小さくしなければなりません。」と、坂野氏は説明する。
これによって、そもそも微小な信号がさらに微小になり、その一方で、雑音やノイズが(相対的に)大きくなるのです。ソースの段階で、すでに情報が失われてしまうことは「まことに不幸なこと」である。高調波の一部が失われると、本来の、「心に訴えかけるような」(坂野氏)音楽性を得ることはできないという。

坂野勉氏の答え:
「音源からパワーアンプに、音楽信号は一切の損失なく送られなければなりません。このために、SPEC社ではDクラスユニットの増幅率を変化させるシステムを用いています。そのため、パワーアンプがどのようなプリアンプでもドライブできるとしても、ソースを直接パワーアンプと接続することを推奨します。
複数のソースを接続したいときには、SPEC社の場合、音質的にニュートラルなパッシブ・スイッチボックスとしてH-SL55を選ぶことができます。
こうすることで、音楽情報が損失なくDクラスユニットに送られます。」
また、外付けの、その大きな物量からして、このパワーアンプに対して相応しい電源装置についても、坂野勉氏はなるほどと言える説明をしてくれた。
「戦艦」にも例えられるトロイダルトランスを使用すると、大きな負荷がかかった場合でも、ディップなしで電源供給が行われるという。坂野勉氏は、このトランスは「振動が少なく、強い磁場を作るという特徴を持っています」と言う。
そして、アンプ部の回路への影響を極力抑えるために、電源部は筐体を別にしたそうだ。これが、透明感のある、新鮮で、精細に分解されたサウンドを生むのだそうだ。そして、DクラスパワーアンプRPA-MG1000がそれを備えていることは疑う余地もない。

この高性能なアンプ回路の魔法からは、誰も逃れることができないのではないだろうか?私たちが取り乱している様子を見て、あなたは眉をひそめるかも知れない。私たちは実際に、このパワーアンプの心臓部を見ているのだ。
この写真は、D級回路を持つ、SPEC RPA-MG1000のメイン基板を示している。
スイッチングアンプというものは、おそらくあなたが想像しているよりもずっと前から存在している。
しかし、SPEC社の眩暈がするほど高価なモノラルパワーアンプの材料の使い方と、クラシカルなA級またはAB級のそれとを比較するべきではない。アンプの最も重要な特徴は、その「ノウハウ」である。この最高忠実度パワーアンプは、私たちがリスニングルームで試聴したもののなかでも、最高のもののひとつに数えられる。Dクラス回路のサウンドは優れたものではない、というおとぎ話から、そろそろ解き放たれるべきだろう。

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