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リアルサウンド・アンプ RSA-F1、RSA-M1、RSA-V1開発にあたって
スペック株式会社 取締役技術担当 矢崎 皓一 2013年6月(記)
古くからのオーディオファンの間では、こんな話がよくされています。
「昔の能率の高いホーンスピーカシステムは、音が前に飛んできて、サウンドが心に訴えかける浸透度が大きい。」
確かにかつての100dBを超える高能率のスピーカーは、たかだか10Wにも満たないような直熱3極管によるシングルアンプで駆動されると驚くほどコントラストに富んだ魅力的な音色で立体感豊かなサウンドを奏でる例が少なくありません。それに比べると、昨今の主流である広帯域ではあるものの低能率のスピーカーは、半導体による高出力アンプで駆動せざるを得ず、どちらかと言えば、再現される音場もスピーカーの後方に広がるのが一般的で、前者と比較すれば広帯域からくる緻密さはあるのですが、ややもすれば平板的なサウンドになりがちでした。ある意味では、現在のオーディオの主流である低能率スピーカー、半導体アンプの組み合わせで可能であったのは、いわば薄味の音色の中での精度感と、スピーカーの平面と、前ではなくむしろ奥に展開するサウンドを追求することでしかなかったのではないかと考えます。
もしこの広帯域で低能率のスピーカーが、まるで高能率のスピーカーのように立体的なサウンドを奏でたら、どれほどオーディオがそして音楽が楽しくなるでしょうか。今回のアンプ開発にあたって、私たちはこうした原点に戻り、オーディオ機器による音楽再生を、低能率であっても、あるいは高能率であっても、どのようなスピーカーを使われても、人間の感性に直接訴えかける美しい音色と立体的な音場形成、そして躍動感溢れる真にリアルなサウンドを再現したいと考えました。
しかし従来のデバイスではこの目標の実現は不可能である事は明白でした。
真空管アンプでは、現代の低能率のスピーカーをフルに鳴らせるだけのパワーハンドリングは望めません。もちろん出力管をパラレル・プッシュプル等々にしてパワーを稼ぐ事もできるのですが、増幅段数も多く回路が複雑になり、シンプル極まりない真空管アンプの原点でもあるシングルアンプの自然で美しい音色からは遠ざかってしまうのが実情でした。
またこれまでの半導体アンプでは、私たちの目標とするコントラストに富む音色と立体的な前後に厚みのある音場は不可能だと断じざるを得ませんでした。なぜならば、半導体アンプが主流になってから、既に半世紀近くが経過し技術的にも爛熟期を迎えてはいるのですが、我々の望むサウンドを実現したアンプは皆無でしたし、また何よりもトランジスターや、FETといったデバイス本来の非直線性は、回路的に深く、場合によっては多重の負帰還を必要とされ、定抵抗負荷によるいわゆる“静特性”は極めて高いレベルにあるものの、実際にインピーダンスが複雑に変動するスピーカーを接続し、これを駆動した際は、その変動や逆起電力の影響を受け易く、アンプ内部での位相の遅れや乱れを発生しがちなのです。また出力インピーダンスが小さいが故に、一定の抵抗値を分子としたダンピングファクターは3桁にも達するのですが、このダンピングファクターの大きさが、実際にインダクタンス分を含むネットワークやスピーカーを駆動させた際の音楽的豊かさと全く無縁であったのは、上記の理由によるものであると考えられます。このインダクタンス負荷によるアンプ内部の電圧-電流変換の位相遅れは、たとえ強力な電源を組み込んでも最終的にはスピーカーの立ち上がりを鈍らせ、原音に存在する豊かな倍音成分からなるスペクトラムの再現を難しい物にし、また立ち下がりも源信号通りの伸びのあるエンベロープを十分に再現できず、自然で明確な立ち上がりと立ち下がりが織り成す音楽の最も重要な要素の一つである躍動感をもスポイルしていたのです。
そのような手詰まりの状況の中で、真空管アンプをパワーハンドリングと低域駆動の精度で凌駕し、半導体アンプのスピーカーというインダクタンス負荷を背負った際の“動特性”の脆弱さを原理的に解決した、真の第3世代のアンプとなりうるデバイスが4年ほど前に米国のIR社で開発されたのです。既にPWM方式によるDクラスアンプのデバイスも幾つかのメーカーから市販されていましたが、特にこのIR社のパワーデバイスは、400kHz前後の大電流のスイッチングがほぼ完璧と言ってもよいほどの精度を確保しており、この精度その物が、最終的には際立ったリアルな音質を決定づけたと言っても過言ではないと思います。またこの最終段のMOSFETを高い時間軸精度でゲート制御が可能なドライバーICとの組み合わせも相まって、新たなオーディオ再生の道が開かれたのです。
さてここでDクラスアンプの基本的な特長をまとめてみます。
まずDクラスアンプはエネルギーの伝達方向が双方向です。スピーカーからの逆起電力は通常の半導体アンプのようにアンプ内部の負帰還回路に侵入することなく、電源に回生されます。またスピーカーというインダクタンス負荷を背負っても原理的に位相遅れが少なく、これらの特長は複雑な周波数依存性のインピーダンスと逆起電力を発生させるスピーカー負荷を駆動する上で極めて重要です。またDクラスアンプは瞬時にパワーをひねり出すことが半導体アンプより容易です。半導体アンプではトランジスターのベース電流やFETのゲート電荷を供給することでパワーを上げ下げしますが、ここでの負帰還の影響もあり、位相が遅れがちです。一方のDクラスアンプでは、PWMのスイッチングのタイミングを変えるだけで容易に出力パワーが変化します。結果としてDクラスアンプは音楽の普遍性でもあるダイナミックス再現性に優れているのです。さらにDクラスアンプは半導体アンプと比較しても圧倒的に高効率です。これは同じ電源容量を使った場合に、見かけ上の電源容量が増えたことと等価です。アンプ側から見た時、トランスが大きく見える、AC電源がより大容量になったように見えることと等価なのです。例えば、我々が採用したIR社の最終段の電源利用効率(電源出力に対する、実際のスピーカー駆動出力の比)はフルパワーであると理論値の100%に近似する96%にも達しますが、一般の半導体アンプではせいぜい30%ということで、同じ電源容量であれば、半導体アンプのそれの3倍もの大きな電源を搭載している事に等しいという事です。もちろん、半導体アンプであれば、音楽信号に変換されないある意味無駄な電力が熱によって消費されるわけで、あの大きな放熱機構が必要とされるという事になります。
さて私たちは、私たちの理想とするアンプを開発するため、この優れた動作原理・基本特性を持ち、省電力という今日的な課題にも十分に対応し、オーディオ的にも実際のスピーカー駆動に大変有利、かつ大きな可能性を秘めたDクラスアンプという方式を選択しました。
そしてパワーデバイスとしてIR社のデバイスを採用し、そのポテンシャルをフルに発揮させることが、新たなリアルなサウンドをもたらすことになり、豊かな音楽の世界を求める方々の福音となりうると確信して製品開発を始めたのです。
オーディオ機器の開発はすぐれて人間的な営みのなせる業であって、そうだからこそ、それが奏でるサウンドには開発にあたった技術者の単なる技術レベルだけではなく、それにかける思いやこだわり、そして感性や音楽性、多少大げさに言えば人間性がそのまま反映されます。
という事で、アンプ開発のお話しをさせて頂く前に、まことに汗顔ものですが、開発にあたった私自身のオーディオ、あるいは音楽に関する原体験を述べさせて頂き、その中で私が何を目指してきたのか---、ご理解を賜ればと願っています。
もう40年前の事ですが、今でも鮮明に思い出すのは、1971年秋、五反田卸売センターでのオーディオ・フェアにおける「無線と実験」誌のブースでの、真空管アンプの鳴き合わせです。
一方はKT-88のPPアンプで、確か片ch70~80Wも出力の取れるもので、外観的にも超弩級、大変に見事な出来栄えであり、また20dB以上の負帰還をかけ静特性に関しては全く非のつけようもない仕上がりでした。しかしこの大出力、高負帰還のアンプは、大出力が空振りしているような良くも悪くもまことに普通過ぎる音でした。
もう一方はカンノアンプと呼ばれていた、WE300Bのシングル無帰還アンプ、それもアウトプットだけでなく段間にもインターステージ・トランスを採用した、いわゆるトランス結合という極めてプリミティブな形式のアンプで、出力も高々6W~8Wの出力しか取り出せません。ただし、そのトランスはウェスターンのコア材を徹底的に調べ上げ、そのコア材から金属メーカーに特注したという高価なパーマロイ・コアによるもので、一般には入手困難な希少な物という事でした。またスピーカーは名器と称されたALTEC A-5、システムとしても100dB近くの高能率の物で、真空管アンプの比較試聴には大変にマッチしていて、この2つのアンプのサウンドの差を我々の前に圧倒的な明晰さで表現してくれました。この時のカンノアンプの音色の美しさには言葉を失いました。多くの聴衆のかなり後方で聴いていたのですが、何か空間に透明なエーテルが漂っているのではないか、と錯覚させるような“美音”、まさに“音楽”が鳴っていたのです。
私にとって結論はあまりに明白でした。そしてリニアリティに優れる直熱3極管によるシングルアンプと高能率のホーンスピーカー・システムを有する事が、以後の私のオーディオ探求の目標となったのです。
まずその直熱3極管による無帰還シングルアンプについては、「無線と実験」、1972年7月号に掲載された安斉勝太郎先生によるWE310A駆動によるDA30(PX-25A)無帰還シングルアンプの製作記事に引き付けられました。現在ではヴィンテージとも言えるほとんど入手困難な基本特性の優れた真空管、極めて簡潔な回路、コアボリュームの大きなアウトプットランス、無帰還でありながら必要十分な静特性等に魅力を感じ、早速部品を集め始め、シャーシも特注し翌年の73年2月には一応完成を見ました。一聴したところ極めて静かなアンプという印象でしたが、このアンプの奏でるサウンドにはさすがに英国生まれのパワー管故か品位と自然さ、そして何か桁違いのポテンシャルも感じられて、製作後既に38年が経過しましたが、今も改良がとぎれる事なく続けられていて、オーディオの真の奥深さを私に教えてくれています。
また、私の音楽の趣味を決定づけた学生時代は、ある意味ではモダンジャズの全盛期であり、優れたオーディオ機器で、グルーヴィなジャズを奏でるジャズ喫茶も多く、そんな時代に友人の影響もあって、洗練された白人のジャズボーカルにのめりこみました。英語による洒落た歌詞、その崩し方の自然さ、日本人には決してまねのできない彼らの体に生来備わっているリズム感等、その深い魅力に引き付けられたのです。また、日本人と彼らの体の大きさの違いか、発声構造のそもそもの違いか、ボーカルの声その物が違っていることも判ってきました。例えばフランク・シナトラの強靭な声の再現には、中低域の充実が欠かせないという事実です。また英語においては子音が大事であり、日本語にはないこの高音域に存在する子音をいかに自然に表現するかが彼らのボーカルをリアルに再現する極めて重要なキーである事を認識したのです。後年、彼らのボーカルをリアルタイムで周波数分析すると、その帯域の広大さ、そしてその複雑極まりないスペクトラムの紋様は他の様々な楽器、例えばピアノやバイオリン等のそれをはるかに凌ぐこともよく判り、オーディオによる音楽再現には最も精緻な創造物でもある人間の声、殊にジャズボーカルをよりリアルに再生することが、重要であることを再確認し、これが私の果てしのないオーディオ探求の目標になったのです。
さて、ほぼ40年このかた仕事も趣味もほぼ同一線上にあって、オーディオを音楽を自分なりに楽しんできた私ですが、ようやくたどりついたのが、米国IR社のDクラスアンプのソリューションでした。ドライブICとDirectFETと名付けられ、MOSFETを直接、金属缶に貼りつけたパワーデバイスからなりますが、このソリューションに初めて出会った時に、もしこれらのデバイスを真に生かすことが出来得るならば、半世紀を大きく超える時空を超越し、先に述べた直熱3極管によるシングルアンプの人肌を感じさせるような自然で美しい音色と豊かなサウンドを実現できるのではないか、と直感したのです。 アナログ技術の極地ともいうべき、まことに古典的な真空管アンプのサウンドと最新の半導体プロセス技術の粋によるDクラスアンプのそれが基本的な部分で同質の、何の違和感もないサウンドを表現しうるのではないか、という不思議な感覚に襲われた事は、当の私にとっても突飛に過ぎてにわかに信じられないような出来事であったのですが、このソリューションとの付き合いが深まれば深まるほどその直感が確信へと姿を変えてゆきました。またDクラスアンプはスピーカーの原理的に逆起電力の影響やインピーダンス変動の影響を受けづらく、低域駆動力に優れており、一般にアウトプットトランスを必要とする真空管アンプには到達し得ない正確なパワードライブも可能という大きな利点を有し、現在主流の90dB以下の低能率スピーカーをあたかも高能率スピーカーのごとく鳴らせるという事実も判ってきました。それは音が遠くまで飛ぶ、あるいはスピーカーの存在が消え、左右だけでなく前後に厚い立体感のある音場が形成されるという表現が適切かもしれません。そして試作が進む中で、私は次のように確信したのです。
“これまでの 80年~90年に及ぶ長い歴史を耐えてきた真空管アンプを第一世代、また既に半世紀に渡り音質が改善され、現在までオーディオを支えてきた半導体アンプを第二世代とすれば、自然な美しい音色で最良の真空管アンプに比肩し、低能率スピーカーにおいても半導体アンプを凌駕する高いドライブ能力を有するこの IR社のソリューションのポテンシャルを極めたDクラスアンプは、真の第三世代アンプになりうる。”
さて、私たちはこのアンプの開発の中で、様々な用途の素晴らしいパーツとのめぐり合いを体験してきました。思いが通じる、そんな体験の連続であったのです。今回は電源のキーパーツである整流ダイオードに焦点を当てそれまでの経験も含めお話しさせて頂きたいと思います。
PART-2でも述べたように、私はWE310A駆動のDA30(PX25A)無帰還シングルアンプを38年に渡り、使い続け改良し続けてきました。この中で整流回路にまつわる2つの体験をお話ししたいと思います。一つはプレート電源整用の整流管にまつわる件、もう一つがパワー管、DA30のヒーター電源の直流点火用のブリッジ・ダイオードの件であります。まず最初に整流管の持つサウンドの素晴らしさについて触れなくてはなりません。一言で言えば自然でリアルという表現につきると思います。これは真空管アンプの大御所であった故浅野勇先生が、シリコン・ダイオードを好まず、整流管を殊にパワー管とのマッチングを重視され、注意されて選択されてきた事からも伺えます。私はこうした先達の製作記事を全く後追いでしたが、このDA30シングルアンプで確認させて頂く事になりました。挿入損失の大きさ、レギュレイションの悪さは通常のシリコン・ダイオードと比較になりません。しかしシングルアンプとのマッチングは最高です。確かにシングルアンプの場合は負荷電流の変化は信号レベルの大小にかかわらず殆ど一定ですから、音質に関連する重要な要素はレギュレイションにはないだろうとの仮説は十分に成り立ちます。またレギュレイションの劣る、内部抵抗の大きな整流管の方がむしろ音質的に好ましい事も体験してきました。例えば高能率・高レギュレイションを誇る近代管GZ34のPHLIPSのメタルベースのオリジナル(1957年オランダ製,各社GZ34でも評価が高い。)であっても、ヒーター電力を40%~50%も余計に消費する英国製GZ37系(通常の細管、太管も含む)あるいは米国製WE422Aに比較すれば、音色の色数が少ないというか、細部の表現が見えにくく、ゆったりした感じが失われます。という事で、ここでは個々の整流管の音質を云々はしませんが、整流回路に関しての目指すべきサウンドとして、整流管の音質があり、それも比較的整流のための電力の必要とする整流管の音質を良しとしたのです。
また4V2Aという大きな電流を必要とするDA30のヒーター直流点火用のダイオードについてはこんな経験をしました。もう6,7年前の事でしょうか、「管球王国」で、新忠篤先生がWE300Bのヒーターの直流点火に関し、様々なダイオード・ブリッジや3端子レギュレーターを比較試聴した記事がありました。実はその中で大変に高く評価された、ウェスターンの古いダイオード・ブリッジを私も早速入手し、DA30のヒーターを点火させてみました。試聴記事にあるとおり、音楽のたたずまいが全く異なりました。不思議な事に音の立ち上がりが改善されていて、立体感がより引き立ち音楽の陰影が濃いのです。確かに直熱3極管の場合、ヒーター=カソードですので、余計にヒーター点火の良し悪しが明確にサウンドの差異に反映したのかもしれませんが、何でこんなシリコン・ダイオード初期のブリッジがかくも素晴らしい音楽性を有するのか、に関しては明確な答えはありませんでした。唯この時、友人の専門家が示唆したのは、4つのダイオードの特性がよく揃っているのではないか、という事でしたが、この時はマニアにお決まりのウェスターン礼賛で終わりました。従ってこれからの経験としては、シリコン・ダイオードだからと言って直ちに音質が悪いと決めつけてはいけない、という事でした。
さて、RSA-F1,V1の開発に話を戻しますが、上記の様々な体験を通して、電源回路は極力シンプルたるべし、むしろ回路ではなく部品品質にこだわるべし、という開発コンセプトから、試作段階よりまことに単純、古典的なコンデンサー・インプットのブリッジ整流にて+-電源を造るという方向でサウンドを詰めてきました。当初は最新の様々なショットキーバリアーダイオード(以後SBD)を入手し、試聴を繰り返しました。但し、高域のノイズ感は全く問題有りませんが、残念な事にあの整流管独特の、特にWE422Aに特長的な中低域の厚みや押し出し、マッシブな音の形を表現できないのです。
何か壁が立ちはだかったような状況に有った時、友人である先のIRのソリューションの開発者が、米国LA(ロス・アンジェルス)のジャンク屋さんで、素晴らしいブリッジを入手したとの事、これを相当量送ってくれました。それは1978年製の当時の米国、通信衛星用途のブリッジとかで、1000Vの逆耐圧特性、15Aの電流容量を持ち、放熱を兼ねたアルミダイキャスト製のケースもまことにしっかりしたもので、一目でその信頼性の高さが見てとれました。早速これに交換し、試聴してみました。驚いた事に今まで欲しかったピラミッド型の土台のしっかりしたサウンドが再現されているのです。情報量も際立って多く、我々の望んでいた音楽表現のできるダイオードは、最新のSBDにはなく、むしろ古い形式のシリコン・ダイオードで、逆耐圧特性が高く、逆回復時間の短い、また電流容量の大きな、ブリッジにした時に特性の揃っている物を探すしか道がないことが判ってきました。そして定性的な仮説として、ダイオードの特性の中で音質を決定する要素が、いわゆる整流ノイズと呼ばれるダイオードが本来的にもつスイッチング特性による事も見えてきたのです。
こんな状況の中で、オーディオ機器に限らずむしろ業務用途の機器においても、近年はEMC(電気機器などが備える、電磁的な不干渉性および耐性。回路・電源等から放出される高周波のノイズの抑制が課題)への対応の必要性から、電源のダイオードもこのスイッチング時の高周波の整流ノイズを如何に抑えるかが大きなテーマとされ、ウルトラファーストかつソフトリカバリーという新しいタイプのダイオードが既に開発されていました。業務用途ではあったのですが、我々がまさに願っていた高周波の整流ノイズの極小化を図ったダイオードでした。試聴も想像以上の、これまでの最良の結果を得て、RSA-F1には何と逆耐圧1000V、電流容量30Aの高価な同種のダイオードを奢られており、またRSA-M1,RSA-V1にも逆耐圧600Vの同様のソフトリカバリータイプが採用される事になりました。
優れた整流管の豊かなサウンド、ウェスターンの古色蒼然たるダイオード・ブリッジの立ち上がりの良いサウンド、そして1978年製の通信衛星用の高耐圧ブリッジの密度の濃いサウンドを聴き込んだ私の体験が、この最新の業務用ダイオードの選定に結実したと言っても過言ではありません。
尚、今回はこのように電源のダイオードについてお話させて頂きましたが、他のパーツの選定にも幾多の先人の知恵や経験が私を通して生かされており、こうした事実に思いが及ぶ時、優れたパーツを世に送り出された名も無き多くのエンジニアの方々、また営々と真空管アンプに人生を捧げてこられた先達への深い敬意と感謝が私の心を満たします。
リアルサウンド・アンプRSA-F1,RSA-M1,RSA-V1の自然で美しい音色、真にリアルなサウンドを皆様が大好きな音楽で満喫して頂く事、開発にあたった技術者として、また一個の人間としてこれに過ぎる喜びはありません。
ご精読有難うございました。
(完)